共産主義理論は、政治制度というよりも経済制度理論であり、社会における労働と価値に依拠している。カール・マルクスはその著作の中で、「労働は価値を生み出すが、労働者 (「プロレタリアート」) には生存できる食事と転職を思いとどまらせるために必要な最低限の賃金しか支払われない」という問題を提起している。すべての利益は工場 （または農場や株式会社など、マルクスの言う「生産手段」）を所有している者) の懐に入る。19世紀末から20世紀初頭の多くの人々にとって、これは窃盗のように思えた。労働の成果が、何も仕事をしていない工場の所有者 （「ブルジョアジー」） によって盗まれているというのである。この結果として生まれたのが、「プロレタリアート独裁」、つまり労働者による支配と、労働者が労働の成果を自由に獲得できる共産主義思想である。これはいわゆる「独裁」とは異なるものだった。 理想としては、最終的にはすべての人が「プロレタリアート」と呼ばれることになり、労働者は「能力に応じて与え、必要に応じて受け取り」、政府へ民主的に参加するはずだったからである (ただし、きちんと機能する民主的なルールを有する共産主義国家は、歴史上皆無である)。現実の共産主義国家は、こうしたビジョンを実現しようとして苦闘した。マルクスのモデルは工業生産を基軸にしていたが、農業社会はどうあるべきなのか？ 共産主義は宗教を下層階級の浮上を抑え込むための欺瞞と見なしていたが、敬虔な労働者はどうするべきなのか？ また、共産主義では闘争を国境や民族を超越したものと見なしていたが、国際的な統一を受け入れなかった人々はどうすればよいのか？ こうした問いに答えようとした結果、マルクスのイデオロギーは分断され、細分化されていった。ソビエト連邦では、選択集団である共産党を先頭にして変化を実行するという考えを標榜し （現在のベトナムなどで見られるような「マルクス・レーニン主義」の伝統を生み出した）、後にヨシフ・スターリンは、それまでの反民族主義的イデオロギーにナショナリズムとカリスマ的指導者という概念を再び導入した。ソビエトが発展するにつれ、党はより厳しく、苛烈な戦略によって反対意見を弾圧する必要があることに気がついた。毛沢東は、産業労働者でなく農民こそが運動の中心にあるべきだと唱えた。また、北朝鮮のような他の国の指導者たちは、スターリンが築いた礎をもとにして、ファシズムと区別がつかない全体主義社会を構築した (彼ら自身は反ファシズムを掲げているにも関わらず、である)。

共産主義はヨーロッパの植民地主義から解放された多くの国にとって魅力的な選択肢となった。資本主義国家が「第三世界」に対し、西洋の企業が支配している国際社会への参加を保証したのに対し、共産主義は体制の自立と資本主義への抵抗を提供したからである (ソ連との同調を維持することが条件ではあったが)。しかし、ナショナリズムはそうした新興国の政治でも重要な役割を果たした。植民地政権の転覆につながったのは国民感情だった。冷戦はこうした流れの中で発生した。資本主義対共産主義の国際秩序は、中立の道を歩もうとするあらゆる国を引き裂き、しばしば民主主義の理想と遠く離れた、権威主義的な政権を生み出した。クメール・ルージュによる虐殺は、共産主義の名のもとに実行された最悪の恐怖かもしれない。毛沢東主義的な思想によってカンボジアを支配した彼らは、社会をユートピアへ作りかえることを目指し、最終的に (同じ共産主義国家である) ベトナムの介入によって終止符が打たれるまで自国民を殺しつづけたのだ。共産党は今でも多くの国で今も存在しているし (その多くは少数政党であるが) 、名目上の共産主義国家の多くでは何らかの形で資本主義が取り入れられている (中国とベトナムはその代表例だ）。少なくとも理論上は、キューバ、中国、ベトナム、ラオスは今も共産主義国家として扱われている。また、共産主義と全体主義が融合した「チュチェ思想」を掲げている北朝鮮も、共産主義国家に含まれることが多い。